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三陽鉄工所メカニック通信~1~

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皆さんこんにちは!

有限会社三陽鉄工所の更新担当の中西です。

 

さて今回は

~“精度は設計図の中にある”~

 

精密部品加工は「材料×設備×段取り×計測×記録」の総合格闘技。とくに鉄工所では鋼・ステンレス・アルミ・銅合金・工具鋼など多品種材を扱い、旋削・フライス・研削・放電・ブローチ・ホブ・ワイヤー・レーザー…と工程が多段化します。本稿では誤差を最小化して再現性を高める基本戦略を、現場の言葉で解説します。


1|精度の“設計”を読み解く:図面の要点とGD&T

  • 基準(Datum):A/B/Cの取り方で検査基準が決定。加工基準≒測定基準に揃えると後工程の補正が軽くなる。

  • 幾何公差(GD&T):位置度・同軸度・円筒度・平面度・輪郭度・直角度。許容差とボーナス公差の理解はコスト直結。

  • 面粗さ(Ra/Rz):切削でRa1.6、仕上げ研削で0.4、ラッピングで0.05といった狙いの段取りを図面段階で合意。

  • 熱処理歪み:焼入れ後の膨張/収縮を見越した仕上しろの設計(例:浸炭焼入れ→研削0.2〜0.4mm残し)。

Tips:最初の打合せで「基準・測定方法・合否判定」を3点セットで決めると、後の“もめ事”が消える。


2|材料のクセを味方につける:被削性と調達

  • 炭素鋼(S45C等):切削性良好、熱処理でHRC50近傍まで。黒皮はスケール除去を忘れず。

  • 合金鋼(SCM/SCr):強度と耐摩耗性、ただし熱伝導低くバイトに熱が残る→クーラント最適化

  • ステンレス(SUS304/316/420J2):加工硬化しやすい→切れ味優先の工具&切削抵抗を途切れさせない送り。

  • アルミ(A5052/6061/7075):高能率切削、ただし溶着対策で高ポリッシュ刃とミスト。

  • 銅合金:バリ管理と刃先欠けに注意、微量切削油微少送り

調達はミルシート/熱処理証明/ロット追跡をQR化して現場端末で閲覧できるように。トレーサビリティ=信頼


3|プロセス設計の黄金則:粗→中→仕上の“段差”を作る

  1. 荒加工:高送り・高切り込みで形出し(旋削/ミーリング)。基準面はこの工程で一発で作る

  2. 熱処理・時効:必要に応じて中間熱処理。

  3. 中仕上:歪みの“顔出し”を見極める工程。クランプ力を弱めて自由状態に近づける。

  4. 仕上加工(研削・ホーニング・ラップ):温度管理(20±1℃)と同一基準クランプで最終公差へ。

  5. 表面処理:窒化・硬質クロム・黒染め・アルマイト等。膜厚と寸法の相互作用を計算に入れる。

温度差は敵:鋼で1mあたり10℃で約0.12mm伸縮。小物でも測定室環境ワーク温調は必須。


4|切削条件の決め方:勘からデータへ

  • 切削速度Vc(m/min)=πDN/1000、送り量f切込apの三点最適化。

  • 工具材種:超硬(P/M/K)、**コーティング(TiAlN/AlCrN/DLC)**の組合せで被削材ごとの最適点を持つ。

  • びびり対策:突出長さL/Dを3以下、工具ホルダは防振、切削条件は周波数帯を外す。

  • クーラント:ステンレスは高圧クーラントで切屑分断、アルミはミスト/エアブローで付着抑制。

**実験設計(DoE)**で“1ロット犠牲にしてでも最適点を掴む”と、以降の総コストは必ず下がる


5|段取りと治具:再現性の源

  • ゼロ点治具で交換時間を短縮。

  • 真空チャック/コレット/マンドレルの使い分け。薄物は負圧、長物は芯押し+定圧。

  • 誤装着ポカヨケ:キー溝・ピン・QR読取で“置き間違い”ゼロ。

  • 熱変位補正:主軸温調+機上計測(プローブ)で自動補正


6|検査と記録:合格の“証拠”を残す

  • CMM(三次元測定機)形状測定機粗さ計投影機

  • **MSA(測定システム解析)**で繰返し性/再現性(R&R)を評価。

  • SPCで工程能力(Cp/Cpk)をモニタし、予防保全へ。


7|まとめ

精密加工の本質は「どの基準で、どの温度で、どう再現するか」。次回は実際の工程設計(旋削→フライス→研削→放電)をケースで分解し、コストと精度の両立を掘り下げます